平成21年度東京海洋大学入学式(学部)における来賓祝辞(経営協議会委員:石井和子様)
Last Update : 2009-04-27 10:40
受験という難関を見事にクリアなさって今日の良き日を迎えられた皆様、ご入学おめでとうございます。
心からお祝いを申し上げます。
念願叶って期待に胸を膨らませている人もいれば、もう少し自分の適性を見つめようと思っている人もいるでしょう。
皆さんは縁あって、この東京海洋大学に入学なさいました。
これからは一人一人のこころの内側から湧き上がる興味こそが皆さんを支えてくれます。内なる心の興味に耳を傾けながら、まずは近くの扉を叩いてみてください。開けて見つからなかったら次の扉を叩けばよいのです。それを繰り返しながらふと気がつくと、今までとは少し違った自分が見えているかもしれません。もしかしたら階段を一段昇っている自分に気がつくかもしれません。受け身でいてはどんな扉もなかなか開きません。
われわれはじめ、地球上のすべての命は海から生まれました。
かつて私はエーゲ海に打ち寄せる波を見ながら「こんなに美しい海から生まれた地球上の生命はすべて美しいのだ」と確信出来たような気のしたことがあります。波は引き際の一瞬、エメラルド色の底を見せながら白い砂浜に打ち寄せていました。
昔、人々は海にロマンを求め、冒険に新大陸発見にと繰り出しました。海は今も変わらず私たちのロマンを湛えているように思われますが、温暖化をはじめ海を取り巻く環境は、昔に比べて著しく変化しています。
海は世界中の気象現象をはじめ、私たちのすべての日常生活と深く密接に関わっています。
たとえば、エルニーニョ現象です。ペルー沖、赤道付近で海面水温の高くなるこの現象は 世界中に異常気象をもたらすことで知られています。
さらにまた、海は、地球温暖化とも大きくかかわっています。海は温暖化の主な原因である我々の出すCO2の30%を吸収して現在は温暖化の進行を和らげているのです。ところが このまま温暖化が進むと、これから先、その吸収の能力が落ちるのではないかと憂慮されています。さらにまたCO2によって海が酸性化しています。海洋の酸化は食物連鎖に影響し、漁業資源への影響も心配されています。そして海に関してのこういった研究もつい最近始まったばかりなのです。これからのいろいろな研究には、今まで以上に国際的協力や連携が必要になって来ることでしょう。
二十一世紀は海が我々人類を方向づける大きな鍵を握っているとも言えそうです。そしてその先端にいるのがみなさんなのです。
どうぞ肩の力を抜いて自分を見つめ社会を、地球を見つめ、そして自分の内から湧き起ってくる興味や探究心を大切になさりながらこの四年間を楽しんで戴きたいと思います。
私は去年から経営協議会学外委員をさせていただいておりますが、実は、後ほど皆さんが歌われる「東京海洋大学・校歌」星野哲郎作詞、鈴木淳作曲の校歌を、初めて聞いた時胸がキュンとなるほど感動致しました。「好きなことを好きなだけ学べることはしあわせものだよ、それが出来るのは現在、現在はすぐに過去」・・なんと、人間でいられることの喜びや儚さの真実を衝いていることばでしょう。胸がキュンとなってしまったのは、幾つになっても学ぶ楽しさがあるとはいうものの、すでに私が年を取り、人間であることの儚さをより実感するようになって、青春の、この歌にあるまさにその真っただ中にいる皆さんを羨ましく感じたからかもしれません。
東京海洋大学はどちらかと言えばこじんまりとしていて、先生方とのコミュニケーションも取り易く、好きなことを好きなだけ学ぶには、いろいろな面で恵まれた環境にあると言えるでしょう。
ただ、ここで特に女子大生の皆さんにお願いがあります。恵まれた環境にあるとはいうもののご存じのようにこの東京海洋大学は新しい出発をして間もなく、女性の数も少ないです。女子大生にとってもう少し心地よい環境を整える必要が、もしあるとすれば、それには皆さんの意見やアイデアが大きな力となります。一人の意見は弱いですが、二十人三十人の意見ともなれば大きな意味を持ちます。ましてや皆さんの学生生活の充実を図ろうと考えている学校側にとってもそれは貴重な意見となります。そのためにも是非、横のつながりも大切になさってください。それは、皆さんに続く後輩のためでもあります。
それではここで 私の好きな 三好達治の詩を読ませていだだいて祝辞と致します。
三好達治「測量船」より ―郷愁―
蝶のやうな私の郷愁!・・・。
蝶はいくつか籬{まがき}を超え、午後の街角に
海を見る・・・・。私は壁に海を聴く・・・・。
私は本を閉ぢる・・・。私は壁に凭れる
隣の部屋で二時が打つ。
「海、遠い海よ! と私は紙にしたためる。
―海よ、僕らの使ふ文字では、お前の中に母がゐる。
そして母よ、仏蘭西人の言葉では、あなたの中に
海がある」
ご入学おめでとうございます。
心からお祝いを申し上げます。
念願叶って期待に胸を膨らませている人もいれば、もう少し自分の適性を見つめようと思っている人もいるでしょう。
皆さんは縁あって、この東京海洋大学に入学なさいました。
これからは一人一人のこころの内側から湧き上がる興味こそが皆さんを支えてくれます。内なる心の興味に耳を傾けながら、まずは近くの扉を叩いてみてください。開けて見つからなかったら次の扉を叩けばよいのです。それを繰り返しながらふと気がつくと、今までとは少し違った自分が見えているかもしれません。もしかしたら階段を一段昇っている自分に気がつくかもしれません。受け身でいてはどんな扉もなかなか開きません。
われわれはじめ、地球上のすべての命は海から生まれました。
かつて私はエーゲ海に打ち寄せる波を見ながら「こんなに美しい海から生まれた地球上の生命はすべて美しいのだ」と確信出来たような気のしたことがあります。波は引き際の一瞬、エメラルド色の底を見せながら白い砂浜に打ち寄せていました。
昔、人々は海にロマンを求め、冒険に新大陸発見にと繰り出しました。海は今も変わらず私たちのロマンを湛えているように思われますが、温暖化をはじめ海を取り巻く環境は、昔に比べて著しく変化しています。
海は世界中の気象現象をはじめ、私たちのすべての日常生活と深く密接に関わっています。
たとえば、エルニーニョ現象です。ペルー沖、赤道付近で海面水温の高くなるこの現象は 世界中に異常気象をもたらすことで知られています。
さらにまた、海は、地球温暖化とも大きくかかわっています。海は温暖化の主な原因である我々の出すCO2の30%を吸収して現在は温暖化の進行を和らげているのです。ところが このまま温暖化が進むと、これから先、その吸収の能力が落ちるのではないかと憂慮されています。さらにまたCO2によって海が酸性化しています。海洋の酸化は食物連鎖に影響し、漁業資源への影響も心配されています。そして海に関してのこういった研究もつい最近始まったばかりなのです。これからのいろいろな研究には、今まで以上に国際的協力や連携が必要になって来ることでしょう。
二十一世紀は海が我々人類を方向づける大きな鍵を握っているとも言えそうです。そしてその先端にいるのがみなさんなのです。
どうぞ肩の力を抜いて自分を見つめ社会を、地球を見つめ、そして自分の内から湧き起ってくる興味や探究心を大切になさりながらこの四年間を楽しんで戴きたいと思います。
私は去年から経営協議会学外委員をさせていただいておりますが、実は、後ほど皆さんが歌われる「東京海洋大学・校歌」星野哲郎作詞、鈴木淳作曲の校歌を、初めて聞いた時胸がキュンとなるほど感動致しました。「好きなことを好きなだけ学べることはしあわせものだよ、それが出来るのは現在、現在はすぐに過去」・・なんと、人間でいられることの喜びや儚さの真実を衝いていることばでしょう。胸がキュンとなってしまったのは、幾つになっても学ぶ楽しさがあるとはいうものの、すでに私が年を取り、人間であることの儚さをより実感するようになって、青春の、この歌にあるまさにその真っただ中にいる皆さんを羨ましく感じたからかもしれません。
東京海洋大学はどちらかと言えばこじんまりとしていて、先生方とのコミュニケーションも取り易く、好きなことを好きなだけ学ぶには、いろいろな面で恵まれた環境にあると言えるでしょう。
ただ、ここで特に女子大生の皆さんにお願いがあります。恵まれた環境にあるとはいうもののご存じのようにこの東京海洋大学は新しい出発をして間もなく、女性の数も少ないです。女子大生にとってもう少し心地よい環境を整える必要が、もしあるとすれば、それには皆さんの意見やアイデアが大きな力となります。一人の意見は弱いですが、二十人三十人の意見ともなれば大きな意味を持ちます。ましてや皆さんの学生生活の充実を図ろうと考えている学校側にとってもそれは貴重な意見となります。そのためにも是非、横のつながりも大切になさってください。それは、皆さんに続く後輩のためでもあります。
それではここで 私の好きな 三好達治の詩を読ませていだだいて祝辞と致します。
三好達治「測量船」より ―郷愁―
蝶のやうな私の郷愁!・・・。
蝶はいくつか籬{まがき}を超え、午後の街角に
海を見る・・・・。私は壁に海を聴く・・・・。
私は本を閉ぢる・・・。私は壁に凭れる
隣の部屋で二時が打つ。
「海、遠い海よ! と私は紙にしたためる。
―海よ、僕らの使ふ文字では、お前の中に母がゐる。
そして母よ、仏蘭西人の言葉では、あなたの中に
海がある」
ご入学おめでとうございます。