海からの声を伝える⼈々
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略歴
黒瀬 光一(くろせ こういち)
海洋生命科学部 教授
九州大学 農学部卒業後、同大学院農学研究科、医学系研究科修了。
製薬企業研究員、日本学術振興会特別研究員、国立公衆衛生院 主任研究官、
国立医薬品食品衛生研究所 室長を経て、
2013年から東京海洋大学教授。
2021年より海洋生命科学部 学部長。博士(理学)。
- Q どんな授業を担当していますか?
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- 食品衛生学(食品生産科学科・3年次)を教えています。
授業では、食品衛生に関する法令や、食品の安全に関するさまざまな話題、食品衛生対策やリスク管理に関する事項など、食品衛生について幅広く取り扱います。
特に、動物性自然毒については、海洋大学の授業ということもあり、より詳細に教えています。毒のある生き物は数多くいますが、たとえばハチや毒ヘビを食べることは一般的ではないですよね? 食べることで人に危害が及ぶ動物性自然毒は、フグ毒や貝毒、シガテラ魚が持つ毒など、その全てが水産動物(魚介類)由来の毒なのです。ですから、食中毒の原因となる動物性自然毒は、ほぼマリントキシンに限定され、それであるがゆえに、特に海洋大学の学生には動物性自然毒の知識を十分に持ってもらいたいと思っています。それから、成人では魚介類に起因する食物アレルギーの発症割合が高く、また、私の専門分野でもあることから、食物アレルギーについても深く取り扱っています。
- Q どんな研究をしているのですか?
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- 研究テーマのひとつを紹介すると、我々は日常生活において様々な物質に接していますが、それらがアレルゲン性や感作性(アレルギーを起こしやすい性質)を持つかどうかを、評価する手法の開発をおこなっています。食品や薬、化粧品など、人が摂取・接触する物質は、商品化にあたりアレルゲン性を評価することが重要です。化粧品などでは、これまでは動物実験により安全性の試験が行われていました。しかし、現在は動物福祉(アニマルウェルフェア)への配慮や製品開発の効率化の観点から実験動物を使わないことが世界的な流れとなっており、他の手法の開発が急務となっています。そこで、私たちは、アレルゲン性を評価するために適したヒトの培養細胞を人工的に作出し、利用できないかと考えて研究をしています。もとにする細胞は、ヒトの免疫系の培養細胞ですが、ヒトの身体は複雑なので、ただ免疫系の培養細胞を使うだけでは、身体全体の反応によって生じるアレルギー反応を再現することができません。そこで、免疫系の培養細胞に、人工的に他の細胞の機能も持たせてあげることで、アレルギー反応を再現できるように工夫しています。
- Q 今、力を入れている研究は何?
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- アレルギーの検査を受けたことがある方も多いと思うのですが、アレルギーの原因というのはアレルギー症状が出た後で、症状が出る前に摂取したものとの関連を考えて、原因を特定していく、というのが一般的です。でも、これだとアレルギー症状が出た後でないと検査できません。摂取する前に、アレルギーを起こしやすい物質かどうかを予測できれば、アレルギーを発症することなく、原因物質を避けることができます。そのような評価・予測技術を確立して、新しい食品の開発や、薬の開発に役立てたいと考えています。
今は、化学物質をターゲットにして研究しています。本来、化学物質そのものはアレルギーの原因にはなりませんが、化学物質の中には体内に入ると代謝を受けて構造が変化してタンパク質とくっつくことでアレルゲン性を示す、というものが報告されています。
そのような化学物質の変化を培養細胞の中で再現したいと考えています。
- Q 海洋大学でアレルギーの研究をするのはなぜですか?
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- アレルギーは、食品はもちろん、医薬品や、身の回りのさまざまな物質でも生じる可能性があります。以前働いていた国立医薬品食品衛生研究所では、薬物アレルギーに関する研究をしていました。どのアレルギーの研究も重要なのですが、食品は毎日誰もが食べる、生きていくために欠かせないもの。だからこそ食品は、誰にとっても美味しく、安全であることが大切。授業のところでも話しましたが、成人の主要な食物アレルゲンのひとつは魚介類であることから、海洋大学で食物アレルギーについての研究をおこなうことにはアドバンテージがあり、これまでも、魚類や甲殻類のアレルゲンに関する研究をおこなってきました。今後も海洋大学ならではのアドバンテージを生かしたアレルギー研究をやっていきたいと考えています。
- Q 研究者になろう、と思ったきっかけは?
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- 小さな頃から、昆虫や魚、磯の生き物が好きで、好きというか、生命は不思議だなとずっと思っていました。高校で出会った生物の先生が博士号を持っていて、とても面白い人だったのがきっかけで、大学では、生命の不思議を解き明かすような研究がしたいと思うようになりました。そこで九州大学農学部に進学し、農芸化学科で、生命の源である遺伝子の研究に出会ったのです。
今ではどこの研究室でもやっていますが、私が学生のころは遺伝子の単離や改変をする技術はまだ普及しておらず、遺伝子を取り扱えるというだけでワクワクすることでした。所属した研究室でその技術をつかってクラゲの発光タンパク質についての研究に没頭しました。発光タンパク質の遺伝子に部位特異的な変異を導入し、それを大腸菌に発現させ、発光を指標としてタンパク質の構造と機能の関係を調べたのです。いつもは測定装置を使って発光の状態を調べていたのですが、ある時、実際に自分の目でその光を見てみたくなりました。そこで、暗室に一人で入って発光タンパク質にカルシウムを少し加えてみました。すると、青白い光がパっと光って、ものすごく綺麗で神秘的に感じました。感動の独り占めです。遺伝子の改変部位によって、光り方の変わることが分かりました。試行錯誤を繰り返して、どのように遺伝子を改変すると、光り方(機能)が変わるのか、その関係性を明らかにしていくことにワクワクしながら研究していました。
研究の中で、不思議だなと思ったことを、いろいろ試行錯誤しながら解決するというか、理解するっていうその一連の作業が、とても面白く感じられて、研究を続けたいという気持ちが強くなりました。修士課程を修了して、製薬会社の研究所に就職したのですが、大学での研究のワクワク感が忘れられず、退職して博士課程に戻り、基礎研究の道を目指し、今に至ります。 - Q 2030年に向けて、これから入学してくる学生さんとどんな研究をしたいですか?
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- 普通に考えると、社会の役に立つこんな研究を、いう話になるのかもしれないのですが、大学での研究では、まず第一に、ワクワク感を体験してほしいと思っています。私はよく登山をするのですが、一歩一歩、上を目指して登っていくからこそ、山頂であの爽快な気分になれると思うんです。車で登ったり、ヘリコプターで山頂に降りたりしても、多分自分で登ったほどの感動は得られないんじゃないかなと。研究も同じで、理解という山頂を目指して、不思議が散在する山道を試行錯誤しながら一歩一歩解き明かしつつ登っていく。この一連の作業が研究だと思っています。ヒトの免疫機構というのは、とても複雑で今も世界中でたくさんの研究が進められ、新しい発見が報告されています。そういった情報もどんどん吸収しながら、アレルギーの世界の不思議に一緒に挑んでくれる学生と一緒に研究をしたいですね。
- Q これから大学へ入ろうとしている若い世代へ
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- 何かに出会った時に、不思議だな、と感じる心と
なんでだろう、と想像する力を養ってほしいと思います。
何気なく日々を過ごしていると、不思議なことにはなかなか気づかないものです。ぜひ、不思議なものを不思議と気付く感覚を磨いてほしいです。
それから、若い人の感覚っていうのは、瑞々しいというか、鋭敏な部分がたくさんある、ということも知ってほしいですね。そういう感覚って年を取っていくと、次第になくなっていくので。せっかく感覚が充満している今を大切にしてほしいと、私は思います。