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海からの声を伝える⼈々

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海をもっと知りたい。その好奇心からいつしか海洋ごみ問題の専門家へ

海洋資源環境学部 海洋資源エネルギー学科 内田 圭一 教授

海をもっと知りたい。
その好奇心からいつしか
海洋ごみ問題の専門家へ

海洋資源環境学部 海洋資源エネルギー学科 
内田 圭一 教授

SDGsの14番と言えば、海洋漂流ごみ問題を思い浮かべる方も多いかも知れません。東京海洋大学では、附属練習船を利用してマイクロプラスチックの浮遊や漂流ごみ、改定ごみに関する調査を実施しています。本学の海洋漂流ごみ問題の専門家としてこれらの調査に取り組んでいる内田圭一教授。今や取材や出前授業に大活躍中ですが、実は子どもの頃から学校の先生になりたいと考えていたそうです。大学入学後も漁具そして航海学と、海ごみに関係のない研究を続けてきた内田先生が、なぜ海ごみの専門家になったのか、お話しを伺いました。

内田 圭一 教授

略歴

内田 圭一(うちだ けいいち)
学術研究院 海洋資源エネルギー学部門 教授
東京水産大学水産学部を卒業、同大学水産専攻科、
同大学院水産学研究科博士前期課程を修了。
東京水産大学練習船海鷹丸次席三等航海士採用。
5年間練習船で航海士として勤務した後に
東京水産大学海洋生産学科助手となる。
その後、京都大学大学院情報学研究科博士後期課程を修了。
2005年に博士(情報学)を取得。
2017年から東京海洋大学海洋資源環境学部 准教授。
2022年から東京海洋大学海洋資源環境学部 教授。

内田 圭一(うちだ けいいち)
学術研究院 海洋資源エネルギー学部門 教授
東京水産大学水産学部を卒業、
同大学水産専攻科、
同大学院水産学研究科博士前期課程を修了。
東京水産大学練習船海鷹丸次席三等航海士採用。
5年間練習船で航海士として勤務した後に
東京水産大学海洋生産学科助手となる。
その後、京都大学大学院情報学研究科博士後期課程を修了。
2005年に博士(情報学)を取得。
2017年から東京海洋大学海洋資源環境学部 准教授。
2022年から東京海洋大学海洋資源環境学部 教授。

Q 所属する学科はどんな学科ですか?

環境保全を前提とした海洋・海底(エネルギー資源を含む)の探査・利用・開発方法について、総合的に学び、実践的に活躍できる人材を育成する学科です。ただ、僕の研究室では、海洋ごみ問題や、超音波水中測位システム(バイオテレメトリー、水中に生息する生物の行動を調べる方法)などに取り組んでいて、学科の中でも少し特殊な分野かも知れません。調査に船というプラットフォームや水中探査に必要な超音波を使用しているところは共通点ですが。
Q どんな授業を担当していますか?

「情報リテラシー」と「応用情報学」を担当しています。「応用情報学」では、海洋での調査や観測のプラットフォームである船舶の通常航海時や海洋観測時に必要とされる船舶運航技術と航海情報に関して、その基礎的事項を講義しています。他には、オムニバス形式の授業や実習を分担しています。海洋資源エネルギー学科の所属する海洋資源環境学部には、新入生全員が参加する「フレッシュマンセミナー」という実習があります。ここ2年間は新型コロナウイルスの影響で宿泊を伴うセミナーを実施できていませんが、本来は千葉県の南房総にある実習施設に泊まり込みで滞在して海と触れあいます。体験型の実験、実習が多いのも本学の特色です。
Q どんな研究をしているのですか。その研究のおもしろさは、どんなところですか?

現在は主に船舶による海洋漂流ごみ(いわゆる海洋ごみ)の実態把握に関する研究をしています。そもそも海洋ごみでも海岸などに漂着するごみの研究は、2000年以前から行われていました。しかし、漂着ごみはいくら片付けても、またしばらくすると清掃前の状態に戻ってしまうということで、これらの発生源を明らかにしないことには十分な対策を講じるのは難しいとなりました。これらのごみは沖合から流れ着く。ならば沖合はどのようになっているのか?沖合を調べるには船が必要だよね。ということで、夏に日本一周の実習航海をする本学の練習船が注目されたのです。そして、2014年から環境省の委託を受けて本格的に沖合域の漂流ごみの実態調査が始まったのです。調査に際しては、かつて船で働きながら漂流ごみのデータ収集をしていたということで、僕が担当することになりました。これまで、系統立てた形で沖合域の調査が行われていなかったため、新たな発見の連続となりました。そして、調査を続けて行くとこの問題は日本だけではなく、海を通じて世界共通の問題であることがわかりました。現在、世界中の人たちがこの問題の解決に挑もうと取り組んでいます。ごみという身近な問題でありながら、海を通じて世界とつながっているというところに、この研究の面白さを感じます。
Q 何がきっかけで、その研究をしようと思ったのですか?好きになった、夢中になったエピソード、現在の研究につながるエピソード等を教えてください。

実は、学部生の時は漁具の研究をしていたんです。その後、本学の水産専攻科修了後、航海士として採用され、本学の練習船に乗ることとなりました。海ごみの研究をしているのは、その頃の名残ですね。遠洋航海では目的地に到着するまで何日もかかるのですが、移動しているだけでもかなりの燃料を消費しているんです。毎日何もせずに過ごすのはもったいないと思い、学生と日の出・日の入りや、海ごみの漂流状況など、いろいろなものを観察しました。それで、ある日、ごみの分布にも傾向があることに気がついたんです。目視観測の結果をマッピングすることで、外洋域の様々な事物がある法則をもって分布することを発見してから、こういう積み重ねが新たな発見につながるもんなんだと、より一層データ収集に夢中になった気がします。
船は、走る間に色々な現象に出会うので、とにかく飽きないんです。走れば走るほど新たなものに出会え、それをデータとして集めることができるのは、この船しかないんだと思うと、無駄になるものは何もないと思っていました。なんでもかんでも集めるものだから、ガラクタを集めているなんてよく言われました。結果的に、この時の好奇心が、今の海洋ごみの研究につながり、今ではすっかりその専門家になってしまいました。

航海士時代に、双眼鏡で何かを探す私。船かな、海獣かな、それともごみかな?
Q その研究はSDGs何番の目標と関わりがありますか?その研究は、社会でどのように役立ちますか。また、どのような職業や仕事に結びつくと思いますか。

目標14番です。海洋プラスチック問題が一般の人たちの目につかない海洋でどのようになっているのか?その実態を明らかにし問題対策に役立てています。研究職(官公庁)・環境アセスメント・国際協力などの職業に結びつくと考えています。また、大学で学んだ事をさらに若い世代に広めていくような教育職も大事かと思います。
なお、後の方の学生時代のエピソードの質問で紹介しているのですが、僕は、本学の水産専攻科の学生だった時に、オーストラリアでバラムーンという巨大魚を釣り上げました。その時に、オーストラリアの釣具屋さんで店主の方にもらったのが、一般の釣り人が魚のサイズを測るためのスケール(定規)です。

26年前に入手した思い出のフィッシュルーラー

この定規には魚種毎に釣ってよい数、釣っても放流しなければならないサイズなどが分かりやすく示されています。日本でも似たような基準はありますが、必ずしも広くしられていません。オーストラリアで釣りをしていると現地の方が魚を持ってきて、僕に「測らせて」と言うんです。今から25年近く前のことですから、生態系維持の意識が一般の方々にまで根付いていることに驚きました。この点では日本は遅れていると思います。 そういえば、この定規について、最近になって気が付いたことがあります。定規の中に英語で「プラスチックを海に捨てるな」と書かれていたんです。最近注目されている海ごみ問題ですが、実は昔から問題になっていたということですよね。そして自分は今、海ごみの研究をしている。いろいろなことがつながっていると感じます。
Q 研究者として、今後の目標は何ですか?研究を通じて、これから世の中にどのような「夢」を与えたいですか?現実的でなくても構いません。先生の夢を教えてください。

海洋における諸現象を最新のICT技術を応用しながらモニタリングして行きたいです。例として、航走している船からの海洋プラスチックごみの実態調査を自動化したい。 また、海の素晴らしさも伝えていきたいですね。実は、僕は、学部を卒業するまで学校の先生になるつもりでした。結局は研究者となりましたが、今も、大学の授業とは別に、宮城県気仙沼市などの小学校などで、海ごみ問題についての出前授業をしています。やはり、小学生は大学生とはまた違う質問や感想が出て面白いですね。質問してもみんな一斉に手を挙げて答えてくれますし。ただ、海ごみ問題は、どちらかというとネガティブな研究なんです。こんなにごみがある、汚染されている、というマイナスな面を調査し伝えていかなければならない。かつては、負の側面ばかり発信され、東京湾の魚は食べられないと思っている子供もいました。しかし、現在の東京湾はきれいになり豊かな海としてその幸は美味しく食べられます。やはり子供達には海と触れ合ってもらって、その楽しさ、素晴らしさ、その生態系の豊かさなどを体験してもらい、海の本当の姿を自分の目で確認して欲しいです。そして、海の素晴らしさを知っていれば、いつまでもこの状態が続くように、自ら考えて行動してくれるようになるのではと期待しています。

小学校での出張授業の様子。子供たちにこちらの思いが伝わるか?いつも真剣勝負です。
Q 2030年に向けて、これから入学してくる学生さんとどんな研究をしたいですか?

海洋プラ問題解決のため、世界中で様々な取り組みが進んでいます。洋上での監視網を充実化することで、それらの効果を適切に評価し問題解決に資する研究を一緒にしたいですね。何より、いつまでも海からの恵みを安心して楽しめるように、海と楽しくお付き合いして行けるように、これからの未来を支える学生さん達と海が抱える問題について研究していきたいです。

【本学出身の先生への追加質問】

【本学出身の先生への追加質問】

Q 1.入学を決めた理由は何ですか。

湘南で生まれ育ち、子供のことから海や魚に興味がありました。高校の時にはプール用のゴムボートで江の島沖まで出て、釣りをしていて注意されたことも・・。小学生の時は釣りクラブに所属し先生と釣りに行ったり、釣竿を造ったりしているうちに、「学校の先生は楽しそう、教員になりたい」と思うようになっていました。大学受験の時に東京水産大学を知り、船に乗れて、教員免許も取れる、こんなお得な大学があるのかと。当時は推薦入試が導入されたばかりでしたが、高校に相談して推薦をいただき、東京水産大学へ入学しました。海と教育に関心があった中、練習船による実習航海で実際に海に出られる事、教員免許や航海士の資格が取れる事など、他の大学には類を見ない充実した設備と内容に惹かれたんです。
Q 2.どんな学生時代を送りましたか。思い出に残っているエピソードを教えてください。

部活(カッター部)で日々、海に漕ぎ出て海を感じながら学生生活を送り、実際の漁業現場で漁業者と対話を重ねて課題に取り組んでいく中で研究の面白さに目覚めました。
また、大学1年生の時に憧れの魚、アカメ釣りたくて四万十川まで行きました。なぜアカメかというと僕の人生のバイブルともいえる「釣りキチ三平」という漫画にこの魚が登場し、そのスケールの大きさにロマンを感じたからです。そして何の手掛かりもなく、漫画本だけを頼りに現地に向かいました。最寄りの駅で、運転手さんにマンガを見せたところその舞台とまったく同じ場所へ連れて行ってもらいそれだけで感動したのを昨日のように覚えています。結局、アカメは簡単には釣れませんでした。その縁で、卒論も四万十川をフィールドとしました。今は海ごみ問題を研究していますが、学部生の頃は漁具の研究をしていたんです。柴付け漁(細い木の枝(柴)を束にして川に沈めてエビなどが住み着いたところを引き上げる漁)について調べたくて、指導してくれる研究室を探していたところ当時の指導教員(現海洋生物資源学部門の東海正教授)が、この研究を面白いと、一緒に四万十川まで下見に行ってくれました。現地には何のつてもありませんでしたが、飛び込みで漁業者に直接交渉して1か月間の受入れ内諾を得て、現地の方の家に住み込みながら、データを取りました。現地の方も、本当に来るとは思っていなかったようです。

卒論を行った四万十川河口の夕日と研究対象の柴漬漁

話しは戻りますが、アカメを釣るという夢はあきらめきれませんでした。アカメと同じ種類のバラムーンという魚がオーストラリアにいると知り、学部卒業後、東京海洋大学の水産専攻科に進学して、遠洋航海でオーストラリアに寄港した際に、再度挑戦しました。そこで80㎝のバラムーンを釣り上げた時は本当にうれしかった。
Q 3.海洋大を受験するか迷っている高校生に伝えたいことはありますか。

普通では体験できないことが体験できる、刺激がたくさんあって、めちゃくちゃ面白い大学です。海に出るためのプラットホーム(船舶)がこれほど充実している大学は他にありません。実際に海に出て海を肌で感じたいと思う人は是非本学へ!

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