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Q 現在の研究テーマを、わかりやすく語ってください。
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主に取り組んでいる研究テーマは、人間関係の中で協力的な関係性がどのように維持され、またどのような制度や仕組み、ルールによって育まれていくのかを明らかにすることです。
特に関心を持っているのは、天然資源、水資源、森林、漁業資源など、人々が共有して利用する資源をめぐる協力関係です。こうした共有資源をどのように管理し、持続的に利用していくのかを考える中で、人間社会の仕組みや人々の関係性に注目しています。
その一つのフィールドとして、現在は漁業コミュニティを対象に研究を進めています。漁業では、漁業資源を共有しながら利用するだけでなく、地域の中で協力して漁を行ったり、資源を守るためのルールをつくったりする場面があります。そうした取り組みは、人々がどのように協力関係を築き、維持しているのかを考える上で重要な事例だと考えています。
一般的には「コモンズの悲劇」という言葉で知られている問題があります。共有資源は、個々人が自分の利益を優先して利用しすぎると、資源全体が損なわれてしまう可能性があります。私は、そうした問題をどのように防ぎ、協力的な資源利用を実現できるのかに関心を持って研究しています。
研究のアプローチとしては、実際の現場に足を運び、データを集めて検証するフィールド調査に加え、実験室で行う経済実験などの手法も用いています。これらを組み合わせながら、共有資源をめぐる協力関係や制度のあり方について研究を進めています。
具体的な研究手法としては、実験室で行う経済実験があります。東京海洋大学には専用の経済実験室はありませんが、他大学にはそうした施設を備えているところもあり、連携しながら実験を行うことがあります。大学内で実施する場合には、学生さんに参加を呼びかけ、決められた時間に実験室に来てもらいます。
実験では、パソコン上に仮想的な環境をつくり、その中で参加者に意思決定をしてもらいます。例えば漁業に関する実験であれば、参加者に漁師の立場になってもらい、1週間のうち何日漁に出るのか、どの程度漁獲するのかなどを選んでもらいます。毎日漁に出てたくさん獲ろうとする人もいれば、少しずつ獲ろうとする人もおり、そうした意思決定の違いを観察します。
さらに、通常の状態に対して、例えばITQ(譲渡可能個人漁獲割当量)のような新たなルールを導入した場合に、人々の行動がどのように変わるのかを検証することもできます。毎日漁に出ていた人が、ルールの導入によって週に数日だけ漁に出るようになるなど、制度による行動の変化を実験室の中で簡易的に観察できる点が、この手法の特徴です。
もちろん、実験室での結果がそのまま現実の漁業の場面に当てはまるわけではありません。実験参加者が学生である場合、現実の漁業者とは置かれている立場や状況が異なります。そのため、実験室では人間の意思決定の本質的・抽象的な部分を捉え、現実の漁業者の行動や漁獲量のデータとあわせて検証していくことが必要になります。
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Q 研究に取り組み始めたきっかけを教えてください。
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研究に取り組み始めたきっかけは、もともと人間がどのように協力し合うのか、またその協力関係がどのように成り立つのかに関心があったことです。
私は社会科学、特に経済学を専門としてきたこともあり、人間社会の構造や仕組みに興味を持っていました。その中で、漁業というフィールドは非常に興味深い対象だと感じるようになりました。
漁業では、限られた資源を多くの人が共有しながら利用します。そのため、漁業資源をどのように管理するのか、どのような制度やルールがあれば持続的に利用できるのか、といった点に関心を広げていきました。
たとえば、利害関係がぶつかり合う場面でも、コミュニケーションを取ることで対立をある程度和らげることができるのか、あるいは罰則のような仕組みを取り入れた方がよいのか。そうした協力関係を支えるルールづくりや制度設計に関心を持ち、研究に取り組むようになりました。
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Q 研究の面白さややりがい、大変な点を教えてください。
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研究の面白さややりがいは、さまざまな人と協力しながら、一つの研究を形にしていけるところにあると感じています。
学生をはじめ、いろいろな方と協力しながら研究を進め、その成果として「こういうことが分かった」と言えるものが生まれていく過程には、大きなやりがいがあります。研究で分かったことを特定のコミュニティで実践し、目に見える形で還元することは難しいのですが、研究成果を現場の方々にお話しすることで、少しでも還元できたと感じられる時には、研究の意義を実感します。
一方で、研究は計画どおりに進まないことも多く、その点には難しさを感じます。
特に、実験や調査を行う時は大変です。漁業者の方にご協力いただき、アンケートに答えていただいたり、実験に参加していただいたりすることがありますが、皆さんには本来のお仕事や生活があります。その中で時間を割いて研究に関わっていただくため、日程調整や協力のお願いにはとても気を配ります。
一方で、「協力しますよ」と前向きに言ってくださる方も多く、人の優しさを感じる場面でもあります。利害関係があるわけではないにもかかわらず、ご自身の時間や知識を共有してくださる方がいるからこそ、その協力を研究成果としてきちんと形にしなければならないという思いが、大きなモチベーションにもなっています。
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Q その研究の未来を語ってください。 :短期的なもの(1~2年後程度)と長期的なもの(~10年後)
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短期的には、何か大きな成果を一気に目指すというよりも、まずは一つひとつの研究を丁寧に積み重ねていきたいと考えています。現場で何が起きているのか、どのような取り組みが行われ、それがどのような成果につながっているのかを、地道に検証していくことが大切だと思っています。
長期的には、漁業に限らず、コモンズに関する研究で蓄積されてきた個別の事例を、より統合的に捉え直していきたいと考えています。これまでの研究では、それぞれの地域やコミュニティに深く入り込み、背景を丁寧に理解した上で行われた事例研究が数多くあります。そうした研究は、その地域やコミュニティに対して非常に大きな還元がある一方で、別の地域にも同じ結論が当てはまるのかという点では、慎重に考える必要があります。
そこで今後は、個々の事例で得られた知見を、共通の尺度で捉え直すような研究に取り組みたいと考えています。これまで別々の物差しで測られてきた情報を、できるだけ標準化し、より一般化できる知識へとつなげていくイメージです。
様々な研究事例を自分で読み込んで処理するには、どうしても限界があります。しかし近年は、データサイエンスや機械学習、自然言語処理の手法が発展しており、多くの研究や報告を対象に、情報を整理・分析できる可能性が広がっています。そうした技術を活用しながら、個別の事例研究をより広い視点から捉え直していきたいと考えています。
また、学術論文だけでなく、自治体や水産試験場などが作成した調査報告書のような資料も含めて分析できればと考えています。学術論文では、どうしても比較的うまくいっている事例が取り上げられやすい傾向があります。一方で、実際には「なぜうまくいかなかったのか」という情報こそ、制度や取り組みを考える上で重要な手がかりになることもあります。
もちろん、失敗事例や課題が公開されている範囲には限りがあります。それでも、学術論文だけでなく、地域に根ざした調査報告や行政・研究機関の資料も含めて検討することで、成功事例だけでは見えてこない情報も少しずつ拾い上げていきたいと考えています。そうした知見を積み重ねることで、将来的には、個別の地域に役立つだけでなく、他の地域やコミュニティにも応用できるような、より汎用性のある知識を生み出していきたいです。
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Q 研究はSDGsのどの目標に貢献できますか。
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本研究は、人々が共有資源をどのように管理し、協力しながら持続的に利用していくのかという大きなテーマを扱っていますが、現在は特に漁業管理や漁業コミュニティの取り組みに注目しているため、まず目標14「海の豊かさを守ろう」に貢献できると考えています。資源管理がうまく機能しているコミュニティでは、水産資源を守ることができ、それが海の豊かさを保つことにつながるからです。
一方で、資源が守られていればそれだけでよいわけではありません。漁業に関わる人々の暮らしや生計が成り立ち、地域のコミュニティが持続していくことも重要です。その意味では、目標8「働きがいも経済成長も」にも関係していると考えています。
さらに、適切に管理された水産資源を利用することは、目標12「つくる責任 つかう責任」にもつながります。水産資源を利用する産業全体で見ても、資源を守りながら生産し、消費していく仕組みを考えることは、持続可能な社会にとって重要な視点だと思います。
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Q 東京海洋大学で研究する良さはどんなところですか。
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東京海洋大学で研究する良さは、漁業や水産の現場とのつながりが非常に豊かなことです。
私が現在取り組んでいる研究では、漁業コミュニティを対象としているため、現地との関係性や人的ネットワークがとても重要になります。調査協力をお願いする際にも、現場に根ざしたつながりがあることで、より深く話を聞いたり、研究を進めたりしやすくなります。
東京海洋大学には、漁業や水産の現場と長く関わってきた先生方が数多くいます。私はもともと漁業のフィールドに深く入り込んで研究してきたわけではないため、そうした先生方の存在は非常に心強いものです。
また、卒業生も水産関係をはじめ、さまざまな現場で活躍しています。先生方や卒業生を通じたネットワークの中で研究できることは、東京海洋大学ならではの大きな強みだと感じています。
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Q 研究を行う上で大切にしていることやポリシーを教えてください。
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研究を行う上で大切にしているのは、人とのつながりや、協力しながら研究を進めていく姿勢です。
大学院で博士課程の研究に取り組んでいた時に、自分一人ではできることに限界があると強く感じました。研究には、正確な分析や高度な処理ももちろん大切ですが、それ以上に、新しい視点や斬新なアイデアが求められる場面があります。そうした意味で、研究には少し芸術的な側面もあると思っています。
近年はAIやデータ分析の技術が発達し、複雑な計算や処理は以前よりもさまざまな技術に頼れるようになってきています。その一方で、「何を問いとして立てるのか」「どのような発想で研究を進めるのか」といった部分は、ますます重要になっていると感じます。
だからこそ、若い学生さんの発想や、人と話す中で生まれるアイデアを大切にしたいと思っています。一人で考え込むだけでは出てこない視点が、誰かとの対話を通じて生まれることがあります。そうした人との関わりを大切にしながら、研究を進めていきたいと考えています。
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Q 研究に疲れた時のリフレッシュ方法を教えてください。
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研究に疲れた時のリフレッシュ方法は、体を動かすことです。体を使って動くと、気分が切り替わり、頭もすっきりするように感じます。
ジムに通うことはなかなかできませんが、昼休みに少し走りに行ったり、通勤に自転車を使ったりして、日常の中で体を動かすように工夫しています。
もともとスポーツを本格的にやっていたわけではありませんが、博士課程に入った頃から、机に向かってこもる時間が増えました。その頃から、運動することで頭が活性化され、リフレッシュできると感じるようになりました。気分転換にもなりますし、その後の作業の生産性も上がる気がしています。
また、小さな楽しみとして、夜ご飯をいつもより少し良いものにしたり、晩酌をしたりすることもあります。そうした時間があると、また頑張ろうというモチベーションにもつながっています。
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Q 研究者を目指す人へのメッセージをお願いします。
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私自身、学生の頃から研究者になりたいと思っていたわけではありません。大学に勤めることも、大学生の頃にはまったく想像していませんでした。
一度は就職し、その後退職して大学院に入りましたが、その時も研究者とは別の職業を考えていました。振り返ると、その時々のご縁やきっかけに導かれながら、今の場所につながってきたように感じています。
だからこそ、研究者を目指す人に限らず、目の前のことに一生懸命取り組むことが大切だと思います。いろいろな場所に、将来につながる種やきっかけはあるものです。一つひとつの経験が、後になって思いがけない形でつながっていくことがあります。
研究も同じで、成果を急ぎたくなったり、近道をしたくなったりすることがあります。論文や業績が求められる中では、焦る気持ちも出てくると思います。それでも、一つひとつの研究に対して、自分にできることを丁寧に注ぎ込んでいくことが、結果的に次の研究や次の機会につながっていくのだと思います。
特に最初の頃は、思うように成果が出ず、焦りを感じることもあるかもしれません。私自身もそうでした。それでも、目の前の仕事や研究に精一杯向き合っていれば、必ず次につながっていきます。焦らず、忍耐強く、一つひとつ積み重ねていってほしいと思います。
2026年9月1日掲載 ※所属はインタビュー当時


