Q 現在の研究テーマをわかりやすく教えてください。

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パワーエレクトロニクスという分野を研究しています。
簡単に言うと、電気エネルギーをより効率よく、有効に活用するための技術分野です。
今の生活では、電気を使わない日はほとんどないと思います。スマートフォンやパソコンの充電器はもちろん、電車やエレベーターなどにも、インバーターという装置をはじめ、パワーエレクトロニクスの技術が使われています。つまり、私たちの生活を支える、とても身近な技術です。
その中で私は、スマートフォンや車の充電器を、どうすればもっと小さく、もっと効率よく作れるかを研究しています。日々、回路を設計したり、試作したり、評価したりしながら、より良い電力変換の仕組みを探っています。
もう一つの研究テーマが、ワイヤレス給電です。スマートフォンのワイヤレス充電はすでに普及していますが、その技術を船や水中探査機などにも応用できれば、より便利で安全な電力供給が実現できるのではないかと考えています。
Q 研究に取り組み始めたきっかけを教えてください。

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きっかけとしては、家族の影響が大きかったと思います。
私の親は、何でも自分で作ったり、直したりするタイプの人で、必要なものは自分で工夫して作ってしまうような人でした。
そういう環境で育ったので、家の中で親がいろいろなものを分解したり、直したりしているのを見て、私自身も自然と電化製品を分解したり、仕組みに興味を持ったりするようになりました。もともと電化製品に対する関心はかなり強かったと思います。
その後、工業高等専門学校に進学したのですが、そこでお世話になった先生が、今の専門であるパワーエレクトロニクスの研究をされていました。その先生を通じて、パワーエレクトロニクスが身近な電化製品にも使われている技術だと知り、自分の興味とつながっている分野だと感じました。
もともとの興味と、先生との出会いが重なって、この分野に進んだという感じです。
Q 研究の面白さややりがいを教えてください。

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研究の面白さは、やはり「分からなかったことが分かるようになる」ところにあると思います。
特に私の場合は、まず理論をしっかり組み立てることを大切にしています。実験をしてから現象を解析するというよりも、先に数式や理論モデルを作り、「こうすればうまくいくはずだ」という見通しを立てます。そのうえで、シミュレーションや実験によって確かめていくというスタンスです。
自分で導いた理論の通りに回路が動いたり、計算結果と実験結果がきれいに一致したりすると、非常に達成感があります。そういう瞬間に、研究の面白さややりがいを強く感じます。
Q その研究の未来を語ってください。 :短期的なもの(1~2年後程度)と長期的なもの(~10年後)。

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普段、研究室で取り組んでいるテーマの一つに、水中ワイヤレス給電があります。短期的な目標は、まず水中でワイヤレス給電を行うための設計指針を明確にすることです。ワイヤレス給電は、現在は主に陸上の装置で使われている技術ですが、それを水中に応用する場合には、陸上とは異なる条件を考慮する必要があります。具体的には、どのような構造にすればよいのか、どのように制御すれば効率よく給電できるのか、どのような設計にすれば安全性や運用性を高められるのかといった点を整理し、「水中で使うならこう設計すべきだ」という指針をきちんと示したいと考えています。
一方で、10年ほど先を見据えた長期的な目標としては、より大規模なシステムを実際に作り、社会実装につなげていきたいと考えています。たとえば、水中探査機の充電への応用です。現在、水中探査機は一度船に回収し、船上で電池交換を行う必要があります。しかし、その作業には大きな労力や手間がかかり、運用コストの面でも課題があります。そこで、水中に給電ステーションを設置し、水中探査機が自らそこへ向かって充電し、再び調査に戻っていくような運用が実現できれば、海洋調査のあり方を大きく変えられるのではないかと考えています。
海中で給電すること自体は、技術的には実現可能な段階にあると思います。ただし、実際に運用するとなると、まだ多くの課題があります。どのようなルールで設計するのか、どういった設計指針を持つべきなのか、どのようにすれば運用効率を高められるのかといった点については、まだ十分に評価が進んでいません。単に技術的に給電できるかどうかだけではなく、実際の海洋環境で使ったときにどのような問題が起こるのかを、一つひとつ確認していく必要があります。
また、水中で使う以上、周囲の環境への影響も考えなければなりません。たとえば、魚などの生物への影響について問われることもありますが、その部分は私の専門とは少し異なる領域でもあります。私たちの立場としては、できるだけ不要な電磁波を外に出さないような設計にするなど、工学的にできる対策を考えていくことが重要だと思っています。
私たちの研究は、社会実装や産業応用に近い分野です。そのため、理論やシミュレーションだけでなく、実際にものを作り、実際の環境で評価することが非常に重要です。本学には「らいちょう※」のような船もありますので、将来的にはそうした船に装置を搭載し、実際の海洋環境で給電実験を行うことも視野に入れています。現在も、企業の方々と一緒に実証に向けた準備を進めているところです。水中ワイヤレス給電を実用化することで、水中探査機や水中ロボットがより自律的に活動できるようになり、海洋調査や海洋資源開発の新しい形につながっていけばよいと考えています。
※東京海洋大学が開発した電池推進船
Q 研究はSDGsのどの目標に貢献できますか。

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私の研究は、SDGsの中では特に目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」に大きく関係していると考えています。パワーエレクトロニクスは、電気エネルギーをできるだけ無駄なく、効率よく使うための技術です。そのため、省エネルギー化や高効率な電力利用に貢献できるという点で、目標7と非常に親和性の高い分野だと考えています。
また、水中ワイヤレス給電の研究が進み、水中ロボットや水中探査機をより効率的に運用できるようになれば、将来的には海洋調査や海洋環境の保全にもつながる可能性があります。そうした意味では、目標14「海の豊かさを守ろう」にも貢献できる研究だと考えています。
Q 東京海洋大学で研究する良さはどんなところですか。

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車や電車は日常生活の中で身近な存在ですが、船は沿岸部に住んでいる人にとっては身近であっても、多くの人にとっては少し距離のある存在なのだと思います。海運や海洋分野は、私たちの生活を支える重要な産業であるにもかかわらず、日常生活の中ではやや見えにくいところがあります。
これは、パワーエレクトロニクスの分野にも通じるところがあります。パワーエレクトロニクス技術は、まず電車や電力系統に応用されることが多く、現在では自動車の電動化にも大きく関わっています。さらに、飛行機の電動化に向けた取り組みも注目されています。一方で、船舶の電動化については、まだ十分な広がりがあるとは言えない部分があります。関わっている研究者や技術者の数が限られていることに加え、船や海の分野で実際にどのように技術を適用できるのか、その知見がまだ十分に共有されていない面があるのだと思います。
その点で、本学の環境は非常に恵まれていると感じています。水中ロボットを研究している先生もいれば、船舶の設計に詳しい先生もいます。パワーエレクトロニクス技術を船舶や海洋分野に応用しようとしたときに、「実際の運用ではどうなるのか」「水中や海洋環境で評価するには何を考慮すべきか」といったことを、専門の先生方に相談しやすい環境があります。
そうした環境があるからこそ、海洋分野とパワーエレクトロニクスを掛け合わせた研究に取り組むことができます。船舶や水中ロボット、海洋機器に電力変換技術をどのように生かしていくかという点に、私たちならではのオリジナリティがあると考えていますし、今後さらに力を入れていきたい部分でもあります。
Q 研究を行う上で大切にしていることやポリシーを教えてください。

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究極的には、工学は人の暮らしを豊かにし、人類の幸福に貢献するためのものだと思っています。工学に携わる者として、自分たちが開発した技術によって社会が少しでも便利になったり、安全になったり、持続可能になったりすることは、常に意識しています。
私はパワーエレクトロニクスを専門にしているため、自分の研究が電気工学の一分野としてその発展に寄与しているかどうかも大切にしています。たとえば、電気学会の論文誌でも、採択の判断基準として、新規性や創造性、有用性が認められるかどうかがありますが、その前提として、論文の内容が電気工学の発展に貢献しているかどうかが問われています。研究を進めるうえでも、この考え方は自分の中で一つの軸になっています。
単に新しい装置を作るだけではなく、ある原理や現象を明らかにし、それをもとに装置やシステムを設計することで、特定の分野に実際に役立つ技術につなげていく。そうした形で、工学の発展にきちんと貢献できるかどうかを意識しています。
また、学生さんにもよく伝えているのは、現象をどれだけかみ砕いて、分かりやすく説明できるかということです。たとえばグラフがあったときに、単に数値を読むだけではなく、「このグラフは言葉で説明すると何を意味しているのか」「右肩上がりになっているのは、実験システムのどの条件に対応しているのか」といったことを、自分の言葉で説明できるようになることが大切です。
本質を理解していなければ、分かりやすく説明することはできません。だからこそ、現象の背後にある原理や条件を丁寧に考え、それを自分の言葉で伝えられるようになることを重視しています。
私はもともと、物理や電磁気のように、物事の原理原則を考える分野が好きです。工学は社会に役立てるための学問ですが、その土台には必ず原理があります。だからこそ、社会実装や有用性を意識しながらも、根本にある真理や原理をきちんと明らかにしていく研究を大切にしたいと考えています。
Q 研究に疲れた時のリフレッシュ方法を教えてください。

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研究で疲れたときは、大学にいる場合、学生さんと話しに行くことが多いです。学生さんと話していると、こちらが思ってもみなかったような発想や、少し突拍子もない意見が出てくることがあります。私たちは研究者として専門的な視点から考えがちですが、学生さんはまだ専門に染まりきっていないからこそ、まったく違う角度から物事を見てくれることがあります。そうした何気ない会話が、新しい考え方のきっかけになることも多いです。
また、疲れたときや考えが行き詰まったときは、一度その問題から離れることも大切にしています。少し時間を置いて、翌日にあらためて考えてみると、前の日には気づかなかったことが見えてくることがあります。無理にその場で答えを出そうとするよりも、一晩置くことで、頭の中が整理される感覚があります。
研究について考える時間としては、電車の中や歩いているときも意外と大切です。ぼんやりと論文の内容や実験のことを考えていると、それ自体が気分転換にもなりますし、ふとした瞬間に新しいアイデアが浮かぶことがあります。電車の中で論文を読み、家までの道を歩きながら考えていると、思いがけず良い発想が出てくることもあります。そのため、移動するときも、できるだけ自転車ではなく歩くようにしています。散歩というほどではありませんが、歩いている時間が、自分にとっては頭を動かす大切な時間になっています。
環境の面でも、視覚的な影響は大きいと感じています。以前は机を壁に向けて置いていたのですが、今は少し向きを変えて、視界が広がるようにしています。目の前が壁だと考えが詰まりやすいのですが、視界が開けていると、ぼんやり考えている中でふと何かを思いつくことがあります。そうした意味でも、私にとってのリフレッシュは、完全に研究から離れることではなく、人と話したり、歩いたり、環境や視点を少し変えたりしながら、考え続けることなのかもしれません。
Q 研究者を目指す人へのメッセージをお願いします。

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まずは、いろいろなことに興味を持ち、自分ごととして向き合ってほしいと思います。一見、自分の専門とは関係がないように思える教科や経験でも、後になって振り返ると、実はどこかでつながっていることが多いからです。
たとえば、飲み会でも会話に入らなければ楽しくありませんし、カラオケでも歌ってみなければ楽しさは分かりません。それと同じで、勉強や研究も、ただ外から眺めているだけでは面白さが分かりにくいものです。「これを自分が使うとしたらどうだろう」「自分がユーザーだったらどう感じるだろう」と考えながら向き合うことで、身の回りのささいなことにも疑問が生まれてきます。
たとえば、普段何気なく使っているドア一つを見ても、「なぜこの方向に開くのだろう」「なぜこの形になっているのだろう」と考えることができます。そうやって日常の中で疑問を持つ習慣がつくと、いろいろな知識や経験が少しずつつながっていきます。まさに、点と点が線になっていくような感覚です。
その中で、「これは人よりも少し楽に理解できるな」とか、「これは他の人よりも興味を持てるな」と感じるものがあれば、ぜひそこにのめり込んでいってほしいと思います。最初から大きなテーマを見つけようとしなくても、日々の小さな興味や疑問を大事にしていくことが、結果的に研究につながっていくのだと思います。
私の分野は応用研究なので、まったくのゼロから1を生み出すというよりは、すでにある技術と技術を組み合わせて、新しい価値を作っていく分野です。「1足す1を2にする」ような研究ですが、実際には、1足す1が1.1くらいにしかならないことも多くあります。それでも、積み重ねていく中で、たまに本当に2になる瞬間があります。そのときは、やはり研究として大きな面白さを感じます。
研究は、すぐに大きな成果が出るものばかりではありません。コツコツと考え続け、試し続けることが必要です。だからこそ、気長に、しかし自分の興味を大切にしながら取り組んでいくことが大事だと思います。いろいろなことを自分ごととして捉え、疑問を持ち続けることが、研究者としての第一歩になるのではないかと思います。
2026年10月1日掲載 ※所属はインタビュー当時

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