(結果と今後の展望)2021年度に海洋AI開発評価センターのGPUマシンおよびGoogleColaboratory上で2020年時点の自己教師対照学習におけるSOTAを達成していたSimCLR[Chenetal.、2020]を実装し、性能を検証した。これと同様の方向の手としては、近年、CLIP[Radfordetal.、2021]やCoCa[Yuetal.、2022]などのように言語モデルと組み合わわせて数十億枚以上の超大規模なデータセットで学習する方法が開発され、目覚ましい成果を上げているが、これらの学習はよほど大規模な予算と施設がない限り不可能である。一方で、これらの手法では、顕微鏡画像のように学習データに類似したものが含まれていない画像に対してはあまり性能が上がらないことが報告されている[Radfordetal.、2021]。また、特徴量表現を学習するにはStableDiffusion[Rombachetal.、2021]で使用されるなど、オートエンコーダーも見直されていることから、自己教師対照学習手法の開発は中止し、顕微鏡画像における明暗画像から蛍光画像への変換タスクや、健康な魚病の異常検知において、U-netやVQ-VAEなどのオートエンコーダによる学習を行ったところ比較的良好な結果を得た。研究成果がまとまり次第、順次発表して行く予定である。テーマd.海洋における高精度硝酸塩プロファイルデータの構築(橋濱史典、長井健容、溝端浩平、宮崎奈穂)テーマe.海洋ビッグデータのAI解析の基礎となる自己教師対照学習手法のシステム開発(竹縄知之)海洋の基礎生産力を左右する栄養塩供給プロセスを理解するためには水塊構造の把握と併せて栄養塩濃度分布の詳細な把握が鍵となる。本テーマでは硝酸塩センサーを用いた鉛直方向の連続観測とクリーン採水器を用いて採取したサンプルの分析値を組み合わせて高解像度かつ高精度の硝酸塩プロファイルデータを構築することを目的とする。(計画・方法)汐路丸による実習航海において、通常の水温・塩分・圧力の観測に加えて、硝酸塩濃度データを収集する。水中紫外線硝酸塩アナライザーによる鉛直方向の連続データおよび、テフロンコート済みクリーン採水器を用いた任意の深度における採水サンプルの分析データを組み合わせることで、海洋の主要変数である水温・塩分等と同じ鉛直解像度をもつ高精度硝酸塩プロファイルデータを構築する。(結果と今後の展望)2022年8月の汐路丸航海(外洋観測実習)において、高精度硝酸塩プロファイルデータの取得に成功した。西部北太平洋の6測点において、水中紫外線硝酸塩アナライザーによる0-2000m間の1m毎データを取得し、同時にクリーン採水により1測点につき17層から硝酸塩サンプルを採取して船上で分析した。水中紫外線硝酸塩アナライザーのデータは分析で得られた硝酸塩濃度と高い相関(r2=0.994)を示し、その関係式から水温・塩分等と同じ鉛直解像度の1m毎硝酸塩濃度データを見積もることができた。今後、汐路丸による外洋観測実習は毎年夏と冬に実施される計画であるため、季節変化を含めた長期の高精度硝酸塩プロファイルデータを取得することが可能となる。地球温暖化に伴う海洋表層の昇温、成層化により、貧栄養化、生物生産弱化の進行が予測されているが、高精度硝酸塩プロファイルデータの継続取得により、その実態を詳細に把握することが可能になると期待される。海洋分野の多くのビッグデータにおいて教師ラベルの付与にコストがかかることが課題となっている。自己教師対照学習は大量のデータを用いる代わりに教師データを使わずに学習する手法であり、教師あり学習に匹敵するか上回る性能を獲得しつつある。実際のデータで自己教師対照学習を行うためのシステムを開発する。(計画・方法)実際のデータで自己教師対照学習を行うためのシステムを開発する。4.海洋ビッグデータの取得、AI分析研究の推進(1)海洋生物ビッグデータを活用したレジリエントかつ持続可能な漁業を実現する漁業統合支援システムの開発と海洋AI人材の育成
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