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水中無人探査機(ROV)を用いた光無線通信による海底ステーションとの無線LAN接続および海底ステーションからの大容量データの回収に成功

Last Update : 2019-03-29 10:00

1.概要
 国立大学法人東京海洋大学(学長 竹内俊郎)学術研究院海洋環境科学部門山中寿朗教授、同海洋電子機械工学部門後藤慎平助教、国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平朝彦)海洋工学センター海洋戦略技術研究開発部基盤技術研究開発グループ澤隆雄主任技術研究員、株式会社島津製作所(社長 上田輝久)航空機器事業部西村直喜らの研究チーム注1)は、水中無人探査機(ROV注2))(写真1)と海底での長期モニタリングなどに資するスタンドアローン型の海底ステーション(写真2)に光無線通信装置(写真3)を搭載し、非接触でデータの送受信を行う実験を実施し、海底ステーション内に搭載されたカメラとのリアルタイムでのデータ通信、および内部のストレージに保存された映像データ(今回は映像ファイル)を船上装置側のPCに転送することに成功した。
今回の試験において、海底ステーションとのデータリンクに光無線通信装置を使用することで、通信の際に必要となる水中コネクターの接続作業や海底ステーション自体の回収作業が不要となり、大容量データをリアルタイムで取得可能であることを実証した。

2.背景
 これまでの海洋調査では、海中を航行するロボットや海底に設置した機器との通信には、海中で著しく減衰する電波は使用できず、そのため音波による音響通信が主流であった。音波は水中での減衰が少なく遠方まで伝搬可能であることから、水深10000m以上のマリアナ海溝の調査などでも探査機の位置確認などに使用されている。一方で、音響通信で伝送できる情報量は数十kbps注3)であることから、画像などの大容量データの転送には通信速度が不十分で、動画の転送などは実質的に不可能なのが現状である。海底に設置したモニタリング装置などから観測データを回収するには、水中での接続が可能な特殊なコネクターを使用する方法や、装置そのものを回収してデータを取り出す方法が用いられる。しかし、水中でのコネクターの接続には、AUV注4)やROVなどの探査機の高度な制御が必要であり、また、市販の水中接続コネクターの多くは耐圧深度が3000~3500m程度までであることから、大深度では使用することができない。装置を回収して内部のデータを取り出す手法では、装置を再び同じ場所に設置することが難しく、モニタリング環境を変えずに連続的なデータを取得することができない。特に後者の手法では観測に空白期間ができてしまうため、海底地震の観測や深海生物のモニタリングなどでは、観測データの欠落が懸念される。そのため、海底設置型のモニタリング装置から、非接触かつ高速にデータを回収する手法の開発が望まれてきた。

3.手法
 本試験はこれらの問題の克服をめざし、新たな光無線技術注5)による通信の実用性について検証を行ったものである。従来の指向性の高いレーザー光を使用する空間通信では、光無線通信装置の光軸注6)を厳密に一致させる必要があるが、本システムではビーム幅の広い光源を使用しており、さらに受光部には高感度で視野の広い光電子増倍管を用いることで、姿勢の保持が難しい水中探査機においても、光軸のズレなどによる通信の質の低下を防ぎ、安定的に通信することが可能である。
本試験で使用した海底ステーションには、光無線通信装置の他に観察用のハイビジョンカメラと濁度計、これら制御するコンピュータ、および電源用のバッテリを搭載している。図1に示すように海底ステーションに接近したROVは、両者の光無線通信装置が対向する位置にて定点保持を行い、データリンクを行うことで海底ステーション内のカメラ、およびPCをROVの操縦装置から遠隔で操作することが可能である。本試験では、ROVと海底ステーション間で光無線通信装置によるデータ通信を行い、ROVから海底ステーション内のPCにリモートアクセスすることで、ステーション内のカメラ操作と保存されたデータをROV操縦盤のPCへ転送(コピー)する2種類の試験を行った。

4.成果
 今回、新たに開発したシステムにより、ROV操縦盤に接続されたPCから海底ステーション内のカメラにリモートでアクセスすることで、探査機とは離れた場所に設置されたカメラからリアルタイムで海底の映像を取得し観察を行うことができた。加えて、海底ステーション内のストレージに保存された約250MBの映像データを約2分間でROV操縦盤のPCに転送することができ、クラゲの仲間が浮遊する姿(写真4)が確認できた。この結果から、光無線通信装置を用いることでスタンドアローン型の海底モニタリング装置へのリモートアクセス、およびデータの取得が可能となった。

5.今後の展望
 今回のシステムを応用することで、深海での長期モニタリングにおいても、観測装置の設置環境を変えることなく観測を継続することが可能となる。これにより、海底地震計などに代表される回収型の海底モニタリング装置の課題であった、再設置時の環境変化と再設置までの空白期間のデータの欠落を解決することができると期待される。また、モニタリング装置にリアルタイムでデータリンクが可能であるため、観測データのサンプリング周期の設定変更やソフトウェアのアップデートなども可能であることから、人がアクセスできないような環境に設置されたハードウェアの保守にも役立つと考えられる。さらに、通信コネクターの耐圧深度と言う制約条件が無くなることで、今後、超深海での長期モニタリングにおいて、資源開発に伴う環境影響評価など幅広い分野の研究に寄与することが期待される。具体的には、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期で実施される革新的深海資源調査技術において、AUVとの通信に活用が期待されている。

語句説明
注1) 本研究チームは、東京海洋大学学長裁量経費「大学改革・機能強化等推進事業」に係る学内公募により採択された、海洋科学技術研究における中核的拠点形成課題「海底資源の探査から開発・利用に向けた包括的研究体制の創設」のメンバーによって構成される。
注2)水中無人探査機(Remotely operated vehicle:ROV)は、カメラなどの観測機器を搭載した有索式の水中ロボットのこと。
注3)bps(bit per second)はデータ転送レートの単位で、kbpsは1秒間に1000bpsのデータが転送できる。近年の空中での電波による無線通信(Wi-Fiなど)は10Mbps(≑10,000kbps)以上が主流である。
注4)AUV(Autonomous underwater vehicle)は、外部からの操縦によらず内部コンピュータのプログラムに基づいて自律して航行・調査をする水中ロボットのこと。
注5)光無線通信技術は可視光を用いた無線通信の1種である。これまで、陸上空間での通信では、電磁波の影響を受けないことから建物間の無線通信などに使用されてきた。電波が使用できない水中では、音波に代わる大容量通信手段としてJAMSTECや島津製作所において開発が進められてきた。今回の試験では島津製作所が2019年4月に製品化予定の光無線通信装置MC100を使用した。
注6)光ファイバーなどに代表される光通信技術においては、発光部からの光束が受光部(または光ファイバー)と一致する(発光部と受光部が一直線上で対面する)ことで通信する。この光の軸にずれ(傾きなどにより直線からずれて対面しない状態)が生じると、通信速度の低下や通信ロスなどの原因となる。

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    写真1 水中無人探査機(ROV外観図

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     写真2 海底ステーション外観図

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写真3 ROVおよび海底ステーションに取り付けた光無線通信装置(点線枠内)

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図1 光無線通信装置を用いた水中での非接触データリンク試験の概略図

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写真4 海底ステーションから回収した映像に撮影されていた、
    クラゲの仲間と思われる生物が浮遊する様子

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【本件についての問い合わせ先】
[本試験内容に関する問い合わせ]
国立大学法人東京海洋大学学術研究院
海洋環境科学部門 教授 山中 寿朗
TEL:03-5463-0600 E-mail:t.yamanaka@kaiyodai.ac.jp
海洋電子機械工学部門 助教 後藤 慎平
TEL:03-5245-7300 E-mail:sgoto00@kaiyodai.ac.jp
https://www.kaiyodai.ac.jp/

[水中光無線通信装置に関する問い合わせ]
国立研究開発法人海洋研究開発機構
海洋工学センター 海洋戦略技術研究開発部 
基盤技術研究開発グループ 主任技術研究員 澤 隆雄
TEL:046-863-9576 E-mail:sawa@jamstec.go.jp

株式会社島津製作所 航空機器事業部
西村 直喜
TEL:075-823-1498 E-mail:polaris@shimadzu.co.jp

【発信元】
国立大学法人東京海洋大学総務部総務課広報室
TEL:03-5463-0355 E-mail:so-koho@o.kaiyodai.ac.jp
https://www.kaiyodai.ac.jp/

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